使命果たすために今の苦悩がある

 視覚と聴覚の両方に障がいのある盲ろう者として、2008年に東大で世界初の常勤大学教授に就任。自らの声と、母・令子さんが考案した「指点字」を使ってコミュニケーションを図りながら、「バリアフリー論」や「障害学」の研究を進め、盲ろう者の社会的支援にも力を注ぐ。
 9歳で失明し、残された聴力までもが18歳の時に失われた。現在の活躍の土台ともなる、その壮絶な半生と家族の物語が描かれた新作映画『桜色の風が咲く』(配給=ギャガ)が、今月4日から全国で順次、公開されている。
 世界から光と音が消えた18歳の冬。「この苦悩に何の意味があるのか」と自問し、むさぼるように点字の本を読んでは、思索を重ねた。絶望感を振り払うようにして考えたことを当時、クラスメートの友に手紙でつづっている。
 「人生に使命があるのなら、それは果たさなければならない。使命を果たすために今の苦悩が必要なら、耐えなければならない」(趣意)
 こう思うことで、内心はすっきりしたという。そして、この手紙は重要な記録になると思い至った。「(友だちから)後で取り返して、今も手元にある」とチャーミングな笑顔を浮かべる。
 今回の映画化に当たっては、監督・脚本家と20回を超えるシナリオ確認のやり取りをしたほか、出演者に指点字の指導を行うなど全面的に協力。「事実を踏まえた、盲ろう者の視点からも不自然のない作品」と太鼓判を押す。(久)

 盲ろう者で初の大学教授に その半生描いた映画が公開 福島 智さん
 1962年、兵庫県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター教授。
 主著に『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社)。
 2022.11.6付 公明新聞 素顔より