将棋の王将戦・名勝負に学ぶ

 原点に立ち返り勇気の炎を
 将棋の王将戦7番勝負が先月から始まっている。王将戦は、将棋の中で最高峰といわれる8大タイトル戦の一つ。本年は、史上最年少でタイトル五冠を持つ藤井聡太王将と、タイトル100期目に挑戦する羽生善治九段の戦いだ。
 “羽生の挑戦”で思い起こされるのは、前人未到の七冠制覇に挑んだ1995年、96年の王将戦谷川浩司十七世名人との対局だ。95年は阪神・淡路大震災で被災しながらも戦った谷川が勝利した。だが羽生は1年間、残り六つのタイトル全てを防衛し、翌96年に再び挑戦。史上初の七冠王となる。
 羽生の偉業に盛り上がる世間とは反対に、将棋界は悔しさにあふれたという。“羽生一強”の事態に、「棋士、全てにとって屈辱です」と語る棋士もいた。最後の王冠を奪われた谷川にとっても「人生最大の屈辱」だった。その後、谷川は不調が続く。指し手に迷い、自身の将棋が指せない。深刻なスランプに陥ったのである。
 そんな谷川に転機をもたらしたのは、将棋祭りで対局した子どもたちの姿だった。素直に将棋盤と向き合うひたむきさ、熱意に、自身の幼少の頃の原点――“将棋を指せる喜び”を思い出したのだ。
 これをきっかけに、谷川は本来の将棋を取り戻す。そして同年11月、徐々に調子を上げて迎えた竜王戦で羽生に勝利し、タイトルホルダーへ返り咲いた(角川書店『復活』『集中力』)。
 ――どんな人も、順風満帆の時ばかりではない。思うようにいかず、落ち込む時もある。「自分なんて駄目だ」と、自分で自分を信じられなくなることがあるかもしれない。そんな時こそ「原点」に立ち返ることだ。挑戦する目的、初心の決意は何であったか。その模索が、行き詰まりを乗り越える希望や活力へとつながる。
 池田先生は、若い友に、こう励ましを送った。「新しい希望を創り、新しい挑戦の意欲を生む“心の港”をつくることが大切」「原点を築いた人は強い。絶対に負けません。くじけそうになった時は、この原点に戻り、勇気の炎を点火し、新しい前進を開始していけるからです」と。
 前進の途上では、目の前のことしか見えなくなることもある。だがそこで、「原点」に立ち返ることができれば、さらなる飛躍へと勇気を奮い起こせる。「伝統の2月」、新たな前進を開始したい。

 2023.2.6付 聖教新聞 社説より