「走らない」

 「二刀流」の大谷翔平選手は足も速いが、かつてプロ野球で"走らない"ことをめざした強打者がいた。1月に74歳で亡くなった門田博光さんだ。南海(現ソフトバンク)などで活躍。通算567本塁打は歴代3位、通算打点も3位、通算安打4位という大記録を残す 。
◆門田さんはプロ10年目の1979年、右アキレス腱の断裂という試練に遭う。再起へのきっかけは、担当した医師との会話だった。サンケイスポーツの追悼再録記事で知った。
◆絶望の中にいた門田さんに、医師は言った。「速く走れないのなら、ホームランを打てばいい。ホームランはゆっくり走ればいいんやから」。さらに「狙わないと、打とうという意思がないと、打てないんでしょ」と。門田さんは「よーし、やってやろう」、「必ず、もう一度ホームランを打つ」と懸命にリハビリに励んだ。
◆重いバットで重いボールを打つなど猛練習。フルスイングで"一発狙い"に徹し、大けがの1年後、41本塁打で復活。翌81年は42本で初の本塁打王に。88年には40歳で本塁打と打点の2冠王に輝き、「中年の星」と呼ばれた。
◆もうダメかと思った時、不屈の闘志で挑戦する——。門田さんの復活劇は、勝利のカギを教えてくれる。(光)

2023.3.9付 公明新聞 北斗七星