日本の横並び思考

 ある豪華客船が航海中に沈没しつつあった。船長は救命ボートの定員に限りがあるから、女性と子供以外は船に残るよう求めた。米国人には「あなたは英雄になれる」。英国人には「残れば紳士です」。イタリア人には「女性にもてます」。そこで日本人に対しては「みんな残りますよ」といったとか。
よく聞くジョークながら、わが同胞の性格をたくみに表現している。大型連休がめぐってくるたびに、このジョークが浮かんでくる。有給休暇をとれば混雑が避けられるのに、横並びでないと心置きなく休めない。「祝日利用派か」「有給休暇派か」を問われると、祝日派が圧倒する哀(かな)しさだ。
▼「働きバチの国」が、いつの間にか世界一の祝日数になっている。日本が十四日間でトップ、二位以下に十日以上のイタリア、オーストラリア、フランス、ドイツが続く。日本はこれに盆も正月も数日間とるから、海外駐在員には母国が休んでばかりいるようにみえる。
▼祝日は横並び休日だから、行楽地はどこも交通渋滞のうえに、ホテルや旅館の宿泊料が上がる。癒やされるはずが、逆に疲れをためて帰ってくる。有給休暇をとる欧米人はバラバラに権利を行使するから、好きな時期に安上がりの旅行が楽しめる道理だ。
▼日本の有給休暇は米国なみの十八日間だというが、消化しているのは五割に満たない。長期不況を経験したために、「休暇をとったらポストがなくなる」との不安からますます尻込みする。有給一カ月あまりのフランス、ドイツの消化率は100%だそうだ。
▼日本の横並び思考は、村の共同作業からくる農耕民族特有の性向らしい。「村」という言葉の由来も、「群れ」からくるとかで、ジョークの船長は正しい発想のようで。
【5月4日付 産経新聞 産経抄