老化やがんの発生に深くかかわる

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老化やがんなどの原因として、近年「活性酸素」の存在が注目されています。しかし、それがどのようなものなのか、あまり知られていません。活性酸素とは何なのか、またその働きと健康の関係について、元国立がんセンター研究所生物物理部長の永田親義さん(工学博士)の話を「Q&A」にまとめました。

☆エネルギーを得る課程で生成
Q 活性酸素って何?
A 活性酸素とは、主として私たちの体の中で酸素や水から生成し、酸素そのものよりも、働きが活発(ほかの分子などと反応しやすい)な分子のことです。
 主に、呼吸で得た酸素を使って、摂取した食べ物の栄養素を細胞内のミトコンドリアの中で燃焼させてエネルギーを得る過程で、活性酸素が生成します。呼吸で得た酸素の約2%が発生します。
 基本的には4種類あり(過酸化水素ヒドロキシルラジカルなど)、それぞれを無毒化したり、消去する酵素がありますが、消去する酵素のない活性酸素があり、これが特に悪い作用をします。

☆生存に不可欠だが過剰になると有害
Q 活性酸素はどんな働きをするの?
A 活性酸素は、酵素の働きを促進したり、細胞内の情報伝達のメッセンジャーになったりします。また、白血球でもつくられ、体内に入った細菌を殺したりして、生きていくうえで、絶対に必要な働きをします。
 しかし、生体とバランスを保っている時は、役に立つ働きをしますが、バランスが崩れて過剰になると、いろいろな病気を引き起こすなど有害な働きをします。こうした点から別名「毒性酸素」とも呼びます。

☆DNAの鎖を切り、細胞の働き乱す
Q 有害な働きとは?
A 人間は酸素を使うことで効率的にエネルギーを得ることができるようになった半面、酸素の強い酸化力によって体が酸化されるのを避けることができません。
 人間の体が酸化されるとは、簡単に言えば、細胞の働きが悪くなり、老化や病気の原因になっていくことです。酸素で酸化されて鉄が”サビる”ことに例えられます。しかも活性酸素は、酸素よりも酸化力が強いため、これが増えていくと老化が進んでいくのです。
 具体的には、細胞膜と結合してその働きを乱したり、DNAの鎖を切ったり、配列を狂わせたりします。
 DNAが傷ついた場合、それらは酵素によって大部分が修復できますが、完全ではないため、修復されなかった個所が次第に蓄積され、細胞の働きを狂わせていきます。活性酸素のこのようなDNAへの”攻撃”によって、やがては、がんの発生にもつながっていくのです。

☆脂肪や喫煙、ストレスで増加
Q 活性酸素が過剰になってしまう原因は?
A 脂肪の取り過ぎ、喫煙、ストレスなどです。
 脂肪は、エネルギー代謝時に脂質過酸化反応が起こり、これによって過酸化脂質や過酸化脂質ラジカルという物質が生成しますが、これらも活性酸素の一種です。
 長期間にわたる毎日の食生活で酸化が続くことになり、やがて、大腸がんや乳がんの原因につながっていきます。
 喫煙については、タバコの煙から活性酸素が生成することが実験により、わかっています。
 タバコの煙を溶かし込んだ液1㍉㍑を、ヒトの肺細胞の培養液に加えると、1個の細胞あたり、DNAの鎖が数千個所切断されることがわかりました。これが肺がんの発生につながっていきます。さらに男性の膀胱がんの85%は、喫煙によるものと見積もる研究者もいます。
 ストレスに関しては、ラットによる動物実験心理的および物理的ストレスを与えた時、活性酸素の生成が証明されました。人間についてストレスによる活性酸素生成は証明されていませんが、動物実験の結果から見て、人間の場合も同様と考えて不思議はないと思います。

アスベストによる発がんの原因にも
Q アスベストによる発がんの原因に、活性酸素が関係していると聞きましたが。
A アスベスト(石綿)はマスコミでも報じられているように、環境発がん物質として、現在、最も危険な物質です。というのは、アスベストは別名「不滅のもの」とも言われ、環境中に放出されたものは、いつまでも消えないで存在し続けるからです。
 また、典型的な発がん物質と違って、アスベストの繊維はDNAに結合しないため、DNAの障害ががんの原因という通常の考え方が通用せず、長い間、なぞになっていたのです。
 近年の研究から、アスベスト活性酸素を生成し、これが発がんにかかわることを示す事実がいろいろと見つかったため、現在では「活性酸素発がん説」が有力となっています。
 活性酸素が生成する理由は二つあり、一つはアスベストに含まれる鉄が、体内にもともとある過酸化水素活性酸素)と反応して、さらに働きの強い活性酸素をつくり出すから。もう一つは、肺に吸入されて肺胞を刺激し、活性酸素生成を誘起させるためです。

☆ビタミンCやE、ポリフェノールで無毒化
Q 活性酸素の害を減らすには?
A 以下の対策が考えられます。
喫煙者は一日も早く禁煙すること。若い年代で喫煙を始めた人ほど、がんになる確率は高くなる。また現在、喫煙していても、やめれば効果がある。禁煙が難しければ、本数を減らしていくのがよい。
ビタミンCやE、ポリフェノールなどの「抗酸化物質」を摂取する。これらの物質が、活性酸素を水に変換し、無毒化する。
脂肪は適度に取る。脂肪の取り過ぎは、活性酸素の仲間である過酸化脂質などを生成し、大腸がん、乳がんの発生につながっていく。
ストレスをためない。社会生活の中でストレスを抱えないことは難しいが、自分なりにストレスを解消する工夫を見つける。ウオーキングなどの運動で解消すれば、さらに効果的である。
【11月11日付け 聖教新聞(生活ワイド)】