出処進退

「時を失わず、それをできるのは、わしとお前だけだろう」――こう言った「わし」は孔子で、「お前」は一番弟子の顔回。この二人だけにしかできない「それ」とは出処進退をあやまたず行うことだ。
民主党永田寿康議員が党と連名で新聞に掲載した広告「偽メールに関する謝罪文」で論語の話を思い浮かべた。時を失せず辞職していたら、広告までは不要でなかったか。
◆時を失しているうちにこの羽目になり身柄は衆院懲罰委員会に預けられている。党内から「腹を切れ」と迫られてもいる。
◆〈出処進退〉は論語のこの話から〈行蔵〉ともいう。行は進んで行うこと、蔵は退き隠れること。孔子とその高弟にしかできないことというから、2500年前の昔も今も人生の大きな難題だ。
◆さて「謝罪文」には、もう一つ思うことがある。メールを偽と認め、攻撃した相手への謝罪は当然だが、失敗のもたらした結果も深く考えてほしい。4点セットと意気込んだ政府追及の行方のこと。
◆どこかへ消えうせたような感がある。もう一通、国民への謝罪文が必要ではないか。
【3月17日付 読売新聞 よみうり寸評】