政策そっちのけの悪口合戦

 「知らなきゃいけないことと/知らなくてもいいことと/きかないふりをしている方がいいことと/きいてはいけないことと/黙っていなくてはいけないことと/黙っていてはいけないことと」。きのうの新聞を読んでいて、森田省子(せいこ)さんの「上品」という詩を思いだした。
 ▼民主党小沢一郎代表が、参院選で負けたら責任を取って、政界を引退する考えを表明した。といっても、議員を辞職するのではなく、次期衆院選に出馬しないということらしい。これって有権者が「知らなきゃいけないこと」だろうか。党の士気を高めるのが狙いならご自由になさったらいい。
 ▼ただし「安倍晋三首相との覚悟の差が出た」という鳩山由紀夫幹事長の発言はお門違いだ。たかがといってはなんだが、野党党首だからいえること。首相の進退はそんな軽いものではない。
 ▼日曜の報道番組は、赤城徳彦農水相の事務所経費問題で持ちきりだった。「光熱費月800円で辞任要求するのか」と首相はかばうけれど、肝心の農水相からは、納得のいく説明がない。違法ではないのだから、「きいてはいけないこと」といわんばかり。
 ▼参院選を目前にして、有権者に日本の将来の選択肢を示すためには、「消費税引き上げ」について「黙っていてはいけない」はずだ。にもかかわらず、与野党ともに及び腰なのは、勝つために「黙っていなくてはいけない」というわけか。
 ▼森田さんの詩はこう続く。「そんな/耳と目と口のつかい方が/お前の 大抵 下品の証明になります。」。政策そっちのけの悪口合戦はとどまるところを知らない。どちらがより下品になれるかが、勝負の分かれ目になりかねない。選挙なんてしょせんそんなものといわれたら、それまでだが。

【7月10日付 産経新聞 産経抄