第34回「SGIの日」記念提言 13-11

◇「人道的競争へ 新たな潮流」-VOl.11

他者の恐怖の上に自らの安全を求めない  「核兵器禁止条約」の制定を

 NWCに対し、保有国の参加を得ることは難しく、それが確保されない限り、有名無実になるとの懸念の声もあります。
 しかし、光明がまったくないわけではありません。インドやイギリスなど一部の国の間では、さまざまな条件や留保を付けながらも核時代を終焉させる必要性を認める見解を示すようになっているからです。
 また、未発効であるCTBTが、非加盟国にも核爆発実験のモラトリアム(一時停止)を宣言する状況をもたらしているように、NWCが保有国にも何らかの形で自己抑制を迫る規範としての重みを持つことが期待されます。
 保有国が直ちに交渉に踏み出せないにしても、その前段階として既存の非核地帯条約の議定書への批准を完遂させるとともに、昨年の提言で呼びかけた「北極非核地帯条約」の制定に前向きに取り組むなど、地域的限定が伴うにせよ、「核兵器の非合法化」の流れに従う<誠実さ>を示すべきではないでしょうか。
 実際、「核兵器のない世界」を望む声は高まっており、保有国を含む21カ国の国民を対象に昨年行われた世論調査でも、平均で76%の人々が核兵器を 禁止する国際規範の必要性を認める結果が出ました。
 こうした声をNWCの実現を求めるグローバルな連帯の形成につなげながら、市民社会の後押しで新たな軍縮条約の歴史を開いた「対人地雷全面禁止条約」や「クラスター爆弾禁止条約」に続く形で、"核兵器禁止の包囲網"を築き上げることが必要です。
 昨年、「クラスター爆弾禁止条約」が異例のスピードで成立をみたのも、非人道的な兵器を許さないとの国際世論が高まったからでした。その最たる存在である核兵器についても、"人道的精神が軍事の論理に打ち勝つ"道を開くことが欠かせないのです。
 先月(2008年12月)には、カーター元大統領やゴルバチョフ元大統領らが名を連ねる核廃絶運動「グローバル・ゼロ」の創設会議がパリで行われました。この運動の特徴も、「核兵器のない世界」の実現は国際世論の広範な支持なしには不可能との認識に立脚している点にあり、明年1月に各国の指導者らと市民社会の代表が参加しての「世界サミット」の開催を呼びかけています。
 こうした世界サミットの開催は、私も年来主張してきたところであり、実りある成果が得られることを期待するものです。そして、明年に行われるこの世界サミットと、 NPT再検討会議での議論をステップボードに、 NWCの交渉を開始すべきだと訴えたい。


人間の安全保障と相いれない絶対悪
 かって20世紀を代表する歴史家のアーノルド・トインビー博士と対談した折、核問題の解決には民衆の強い働きかけと、核保有を拒否する「自ら課した拒否権」を世界全体で確立することが重要となる(『二十一世紀への対話』、『池田大作全集第3巻』所収)と述べておられたことが忘れられません。
 NWCは、その「自ら課した拒否権を基礎とすべきものです。そして、核兵器は人類の生存権を脅かす"絶対悪"であり、「国家の安全保障」のみならず、地球上のすべての人々の平和と尊厳を追求する「人間の安全保障」とは決して相いれないものであるとの信念を、条約の根幹に据えるべきものと考えます。
 その地平が拓けてこそ、"他者の恐怖と不幸の上に自らの平和と安全を求めない"との人類が目指すべきグローバルな「平和の共有」の曙光は輝き始めると確信してやみません。
 焦点となっている北朝鮮やイランの核開発問題も、脅威と不信の増幅に終止符を打つためには、地域全体の緊張緩和と信頼醸成を粘り強く進め、平和を共有する空間を広げる努力が欠かせないと考えます。
 私どもSGI は、戸田第2代会長の「原水爆禁止宣言」を原点に、より多くの人々が核兵器の問題を自らの問題としてとらえることができるように働きかける運動を続けてきました。
 宣言発表50周年を迎えた2007年からは、「核兵器廃絶へ向けての世界の民衆の行動の10年」の具体的行動として「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」展を闇催し、今年からは、創価学会の女性平和委員会が取材・編集した女性による戦争証言を抜粋し5ヵ国語に翻訳したDVD「平和への願いをこめて――ヒロシマナガサキ被爆者証言編」の上映会も各地で行う予定となっています。
 また、 NWCの実現を求めるIPPNW(核戦争防止国際医師会議)が進める「ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)」をはじめ、他のNGOと協力を深めながら、特に女性や次代を担う青年や学生の間での連帯を広げて、国際世論を高めていきたい。
 そして、戸田第2代会長の生誕110周年にあたる明年を目指し、「原水爆禁止宣言」の規範化ともなるNWCの交渉開始を、力強く呼びかけていく決意であります。
〈2009-1-26〉

 【大白蓮華 2009-04 P108〜P134 抜粋】