第34回「SGIの日」記念提言 13-8

◇「人道的競争へ 新たな潮流」-VOl.8

暖化防止に向けた協力の礎  国際持続可能エネルギー期間を設置

誰もが免れない気候変動の影響
 第一の柱については、特に地球温暖化に焦点を当てて論じておきたい。
 地球温暖化は、各地の生態系に深刻な影響を及ぼすだけでなく、気象災害や紛争を招く要因ともなり、貧困や飢餓を拡大させるなど、21世紀のグローバルな危機を象徴する文明論的な課題といえるものです。
 就任以来、このテーマを国連の重点課題に掲げてきた潘基文事務総長が、「長い目で見れば、豊かな人々にも貧しい人々にも例外はなく、気候変動のもたらす危険を免れることのできる人はこの地球上のどこにもいない」(二宮正人・秋月弘子監修『人間開発報告書2007/2008』阪急コミュニケーションズ)と警告するように、誰もが傍観者では済まされない性質を帯びた危機です。
 それはまた、"現在進行中の複合的な危機"であると同時に、甚大な影響が子どもや孫たちの世代にまで及んでしまうという面で"未来をも蝕む危機"にほかなりません。
 残念ながら昨年は、温室効果ガスの削減をめぐる交渉に目立った進展はありませんでした。12月の合意期限までに前向きな議論が進められることが期待されますが、先進国の取り組みの強化はもとより、今後、新興国や途上国の間でも何らかの行動が必要となってくることは論を待ちません。


新興国と途上国含む活動に着手
 では、どのような形で「行動の共有」を図ればよいのか。その突破口はエネルギー政策での国際協力にあると、私は考えます。
 なぜなら、エネルギー問題は新興国や途上国にとっても切実な問題であり、先進国側においても「低炭素・循環型社会」への転換を図る上で避けて通れない課題だからです。
 実際、二酸化炭素など温室効果ガスの発生源の6割近くは化石燃料の消費等によるものだけに、効果は大きいといえましょう。
 また現在、オバマ大統領が提唱するグリーン・ニューディール政策ともいうべき雇用創出プランのように、エネルギーや環境分野で重点的に投資を行い、新しい産業や雇用を生み出す状況をつくり、経済危機の打開を目指す政策の実施や検討が、日本や韓国をはじめ各国で広がっており、機運は高まっています。
 昨年の提言で私は、再生可能エネルギーの導入と省エネルギー対策の促進で「低炭素・循環型社会」への移行を図るアプローチに言及し、環境問題への対応を契機に「人道的競争」の時代を開くべきであると訴えました。その萌芽は、すでに現れ始めています。
 一つは、すでに50カ国以上が賛同を表明している「国際再生可能エネルギー機関」の設立で、今月(1月)26日にドイツで協定文書の調印式が行われ、新興国や途上国を含めた形での国際協力が始まることになりました。私も7年前に「再生可能エネルギー促進条約」を提案し、こうした体制の構築を呼びかけてきただけに歓迎するものです。
 また省エネルギーの分野でも、先月、G8(主要8カ国)に中国、インド、ブラジルなどを加えた国々が閣僚会合を行い、今年中に「国際省エネ協力パートナーシップ」の活動を開始し、事務局を国際エネルギー機関に置くとの共同声明を発表しました。
 まずは、京都議定書〈注5〉の第一約束期間が終了する2012年までに、この二つの新しい活動を軌道に乗せ、国際協力の実績を積み上げながら、「気候変動枠組条約」の取り組みを支える両輪としていくことが望まれます。
 その上で私は、将来的な展望として、この二つの分野での活動を引き継ぐ形で、国連に「国際持続可能エネルギー機関」を創設し、エネルギー政策での国際協力を全地球的なレベルに広げていくべきではないかと提案しておきたい。
 技術やノウハウの提供は経済競争の面で不利益を被り、資金協力は新たな負担増になるとの懸念が生じるかもしれません。
 しかし、大乗的見地から温暖化防止という共通目標に立って協力し合うことが、牧口初代会長の言う「他の為めにし、他を益しつつ自己も益する」(『牧口常三郎全集第2巻』第三文明社)道につながり、最終的には、国益をも担保するであろう「人類益」に直結することを銘記すべきです。
 また、この新しい機関のもう一つの役割として、エネルギー政策に限らず、地方自治体や企業、NGO(非政府組織)も加えた形で、持続可能な地球社会を築くためのグローバルな連帯を強めることが望まれます。例えば、「公開登録制度」を設け、どの団体でも活動内容や実績を登録でき、それをデータベース化してインターネット等で公開し、情報交換や連携を深める場として活用することも考えられましょう。
 私が創立した戸田記念国際平和研究所では昨年11月、「気候変動と新しい環境倫理」をテーマに国際会議を行いました。
 そこで焦点となったのも、国家と企業と市民社会が「未来への責任」に立って連帯し、相乗効果を発揮していく重要性であり、なかでもポイントとなるのが、より多くの人々の積極的な関わりでした。
 私どもSGI (創価学会インタナショナル)では、地球憲章委員会と共同制作した「変革の種子――地球憲章と人間の可能性」展を各地で開催してきたほか、他の団体とも連携しながら、各国で植林運動などの自然保護活動に取り組んできました。環境問題への取り組むは単独で進めるだけでも意義はありますが、ともに手を携え、行動する中で、社会への波動は数倍にも数十倍にも広がっていくはずです。
 この連帯を広げる挑戦にカロえて、国連の「持続可能な開発のための教育の10年」が今年で中間点を迎えることを念頭に、民衆自身が教育・広報面での活動や意識啓発を積極的に担いながら、持続可能な地球社会の建設を目指すことが大切になると思います。
 語句の解説
〈注5〉京都議定書
 97年12月に京都で行われた「気候変動枠組条約」第3回締約国会議で採択された議定書。第1約束期間にあたる2008年から2012年までに締約国が90年比で温室効果ガスの排出量の5.2%を削減することを日標とし、各国ごとに拘束力のある数値が示された。
〈2009-1-26〉

 【大白蓮華 2009-04 P108〜P134 抜粋】