23文字だった

  ABCは、最初から26文宇だったわけではない。ユリウス暦ができた頃、ローマ字は全部で23文宇だった。W、U、Jがなかった。まず11世紀頃までに、Vが重なりWができた。当時のVはU(ウ)の発音も兼務していた。BVで「ブ」と読ませる有名ブランドは、この頃の読み方だ。
 Wは、ダブルのウでダブリューとなった。そして17世紀頃までに、VからUが独立。18世紀頃までに、Iの変型Jが定着した。重なるIがあると見づらいので、下部を曲げたのがJの始まりだともいう。
 今やローマ字は全世界に普及する。ローマ帝国によって征服された土地は、その地方の話し言葉をABCで書き留めた。土地によって独自のやリ方で記録されたので、綴り方が違う。
 日本の言葉も、ABCで書き留められた。1603年、ポルトガル人が日本語3万2000語をポルトガル語流に書き留め、辞書をつくった。1867年、アメリカ人ヘボンもまた、自分の耳で集めた日本語をABCで記録して、和英辞書を出版した。
 辞書製作の第一の目的は、あとから来るアメリカ人宣教師のため。だから辞書の見出しの日本語の単語は、ローマ字で書かれている。この見出しのローマ字表記が明治時代に普及し、ヘボン式となる。つまり現代のローマ字は、「アメリカ人に分かる」綴り方なのである。
 ローマ字書きの姓名の順序を、TARO YAMADAでなく、YAMADA TAROにしようという議論が進んでいる。これまで日本の習慣と逆にしてきたのは、どちらが姓でどちらが名か───これも「アメリカ人に分かる」ようにという「配慮」からだろう。
 世界中に日本の姓名の順序をPRし、日本の伝統的な順番に戻してよい時代なのかもしれない。
 武庫川女子大学教授 丸山 健夫

  2019. 9.13付 公明新聞 「すなどけい」より