わが人生の新記録に挑め

忘れ得ぬ瞬間 創立者の語らい 第15回
創価大学・女子短大 1996年1月 卒業生大会
わが人生の新記録に挑め
 1996年1月26日、創価大学22期生、創価女子短期大学10期生が卒業生大会を開催(東京・八王子市内で)。新たな船出の時を目前に控え、未来への決意を固め合う集いとなった。
 出席した池田先生は冒頭、卒業予定者と、その両親を祝福。創立者としての「感謝」の心を述べた。
 皆さまが「健康」で、これからの人生のすべてが「勝利」の方向へ、「幸福」の方向へと進みゆくよう、私は毎日、祈っている。これからも祈っていく。
 進路はさまざまであるが、一人残らず、自分の道で輝いていただきたい。
 今は乱世である。善悪の確かな基準もない。実力よりも要領、社会貢献よりも“ただもうければいい”――そういう風潮が強い。
 こういう時代には純粋な青年は悩まざるを得ない。
 しかし、社会を変えていく努力は当然として、この、今の現実のなかで諸君は「勝利者」にならなければならない。
 人生は勝負である。勝たなければ幸福もない。
理想は大きく
 この1996年は、4年に一度のオリンピックイヤーであり、近代五輪として最初の大会となった、アテネ・オリンピックから100周年の節目でもあった。
 先生は、一人のオリンピックの英雄を通し、旅立つ友にエールを送った。
 アメリカ南東部の出身で、オリンピック史上、不滅の大記録を打ち立てた黒人青年がいる。
 その名は、ジェシー・オーエンス(1913年~80年)。彼は、アラバマ州で生まれた。貧しい小作人(綿つみに従事)の子であった。
 その彼が、60年前(1936年)、ヒトラー政権のもとで開かれた第11回のベルリン・オリンピックで、堂々と四つの金メダルを勝ちとったのである。(陸上競技の100メートル、200メートル、走り幅跳び、400メートルリレー)
 近代オリンピックの歴史に燦然と輝く快挙であった。彼の偉業は、世界中に広まった。
 貧しく、無名だった一人の黒人青年が、世界的な大英雄になったのである。この時、彼は、弱冠22歳。皆さまも、ほぼ同じ年齢であろう。
 ヒトラーは、ベルリン・オリンピックで、自分たちの民族の優越性を世界に見せつけたかった。
 ところが、そうした彼の思いあがりに痛烈な一撃をあたえた青年がいた。それが、若き黒人ランナー、オーエンスだったのである。
 青年オーエンスは、もともとヒトラーの存在など眼中になかった。
 彼は、歴史的な100メートル決勝に臨んだ心境をこうつづっている。
 「私はゴールラインを見た時、8年間の努力がこれからの10秒間に集約されることを知った。一つのミステーク(失敗)が8年間を台無しにしてしまう。こうした状況下で、どうしてヒトラーのことなど気にかけていられようか」
 必死の人に、雑音など届かない。くだらないことに紛動されたり、あっちを見、こっちに振り回され、人にどう思われるか、どう言われるか、そんなことばかり気にしていて、何ができようか。
 厳然と「わが道」を行けばよいのである。
 ベルリン五輪までの8年間、オーエンスは「世界一、速いランナーになってみせる!」と誓い、“練習また練習” “努力また努力”を貫いた。
  いかなる分野であれ、「世界一をめざそう」との心意気が大切である。
 青年の理想は、大きすぎるぐらいがちょうどいい。実際に実現するのは、そのうちの何分の一かにすぎない場合が多いのだから。
 私もすべて「世界一」をめざしてきた。戸田先生のもとで、それは真剣に勉強した。生命をかけての努力をした。その努力があって、今の私がある。
自分に勝ち続ける
 続けて先生は、オーエンスの信念「大事なことは、自分自身に勝つことだ!」に言及。わが道は、ここにある。それを堂々と歩めばよいのだ――。この確信を彼の心に刻み付けた、中学時代の恩師とのエピソードを紹介し、使命深き創大生・短大生の勝利を念願していることを語った。
 忘れ得ぬ思い出は、ある競技会でのこと。オーエンス少年は、抜かれては抜き、抜いてはまた抜かれるという大接戦を繰り広げた。
 そのレースでオーエンス少年は、もうこれ以上、力は出せない、というところまでベストを尽くした。
 結果は敗北。しかし、彼はゴールを過ぎてからも走るのをやめなかった。勢いあまって、壁にぶつかるまで走り続けた。
 レースに負けて、がっかりしている彼に、コーチは駆け寄ってきて言った。
 「おめでとう!」。思いもよらない言葉だった。きょとんとする彼に、コーチは続けた。
 「君はきょう、勝ったんだよ。だれに勝ったか、わかるかい? (自分自身に勝ったんだよ!)一度ならず、何度も、何度も勝ったんだよ」と。
 それまでのオーエンス少年は、レースの最初に出遅れたりすると、途中で勝負をあきらめてしまうのが常であった。その彼が、このレースでは、最後の最後まで真剣に走った。その「心の成長」を、コーチは見逃さなかったのである。
 すべてのリーダーにとって、重要な教訓がここにある。
 コーチはさらに励ました。
 「いいかい、あすはまた新しい一日だ。きょう勝ったからといって、あすまた自分に勝てるとは限らない。しかし、あすも自分に勝ち、来週も自分に勝ち、来年も自分に勝ち続けていけば、君は必ずオリンピックに行けるよ!」――。
  過去の失敗に、とらわれるのも愚か。過去の小さな業績に傲るのも愚かである。
   この心を忘れた人生は、狂った軌道に入っていく。
  少年にとって、コーチの真心あふれる激励が、不動の原点となった。いばるのではなく、“心から励ます”のが本当の指導者である。
 後に彼は言う。
 「人生こそ――内面生活こそ――本当のオリンピックなのです」
 この人生そのものが、日々、「わが新記録」に挑みゆくオリンピックである。
 まず、自分が強くなればよい。否、自分が強くならなければ、この乱世で勝つことはできない。
 人がどうであろうと、だれが何と言おうと、自分が力をつけ、力を発揮していくことである。
 諸君には、深き深き「使命」がある。その事実を自覚していただきたい。自負していただきたい。
 進むべき「わが大道」を自分で見つけ、自分で築き、堂々と歩んでほしい。
 そしてわが生命に「人生の金メダル」を、燦然と飾っていただきたい。
 2020年1月7日付 聖教新聞 

明けましておめでとうございます。