”礼儀正しい”領土紛争

 カナダはつい先だっても興味深いことをした。今年6月14日、デンマークと半世紀争ってきたハンス島をめぐる領土問題を、島を東西に分割して領有することで解決したのだ。
 ハンス島はデンマーク領であるグリーンランドとカナダの中間にある面積1.3㎢の小島。幅35㎞の海峡に浮かぶこの島は雪に覆われる期間が長く、また、強い海流で取り囲まれ、しばしば氷で覆われることもあり、容易に人が近づけない。しかし、地球の温暖化が進み、そう遠くないうちに、「北西航路」の要衝に変わりうる点も注目され、さらに、島の領有がEEZ排他的経済水域)を伴うことにより、資源探査や漁業権が生じる可能性が出てきたため、近年、領有権問題がにわかに論じられるようになった。
 それでも自由と民主主義を共通の価値観とし、NATOの加盟国どおしの話。両国の軍隊は武力紛争に発展などということは全くなく、まるで期限付きの交代のように軍人らがやってきては、相手の国旗を降納して、自国の旗を立てて撤退して行った。また、自国産の酒と「デンマークにようこそ」「カナダにようこそ」などと書いたカードやメッセージを残していくことが儀式のように慣例化していた。このため、「最も礼儀正しい領土紛争」と呼ばれるほどであったが、現地ではむしろ、互いに楽しみながら、領有権の確認を論じ合っていた。
 ところで、日本が抱える北方領土の帰属問題は、ウクライナ戦争とそれにともなう対ロ制裁、安倍元首相が亡くなられたことなどが重なり、これまで積み重ねられてきた日ロ両国の努力は、残念ながら、ほとんど無に帰した。1993年の「東京宣言」に立ち戻ってのやり直ししかあるまいが、日ロ両国の外交当局は、「中大国」力ナダの知恵に学ぶべきことはないだろうかと思う。

 2022.9.30付 公明新聞 すなどけいより
 世界の国旗・国歌研究協会共同代表 吹浦 忠正