「うつ病」を治す――友人としてのかかわり


 「うつ病」と診断され、その症状に苦しむ友がいる。その心の健康を取り戻すために、私たち同志ができることは、何だろうか---。長年、うつ病の患者と接してきた、医学博士であり、関西副総合ドクター部長である今井英彦さんに聞いた。

 かかわるなら誠意を尽くして
 私は診療所を開いて15年になります。それ以前からうつ病に苦しむ人とかかわる、多くの学会員さんの姿を見てきました。
 まず言っておかなければならないのは、「うつ病」は治る病気です。必ず専門医にかかってください。
 病気を治すのは医者であり、患者さん本人です。その上で、私たち同志が、一人の友人として、うつ病で苦しむ人と、どうかかわっていけばいいのか---。学会員さんには、その重い課題を自ら背負おうとする人が多い。
 うつ病に苦しむ人が、家族でも親戚でもない地域の人々から、真心と無償の支援を受けられることは、現代において、奇跡的なことかもしれません。
 しかし、安易な、その場限りのかかわりは避けた方がいいでしょう。
 もし、あなたが、うつ病に苦しむ人とかかわるならば、誠意を尽くしてかかわっていただきたいのです。
 生半可な気持ちでは、相手のためになりません。むしろ、相手を傷つけてしまうことすらあります。もちろん自分のためにもなりません。
 何度も訴えますが、「うつ病は治せる」病気です。必ず良くなる病気なのです。
 ただ、時間が掛かることがあります。"いつまでに治る"という予測が立ちにくい。
 ですから、うつ病の人とのかかわりは、"いつまで"という時間的なゴールが見えないのが普通です。かかわるならば、3年、5年、10年……。むしろ"良くなるまで、この人とかかわっていこう"。そのくらいの覚悟で、お願いしたいのです。
 もし、その覚悟がないならば、適当な距離を置くことです。あいさつや世間話などはしても、それ以上、相手には踏み込まない。冷たいように聞こえるかもしれませんが、それが、うつ病に苦しむ人のためなのです。慈愛です。
 とはいえ、無視してはいけません。ただでさえ相手は大きな不安や孤独を感じています。さらに追い込むようなまねは、やめましょう。
 たまたま会った時に、「頑張りなさい」などと言葉を掛けるのは、いけません。一番、頑張りたいのは患者さん自身です。でも、頑張れないのです。そのせいで苦しんでいるのです。それを"頑張れ"と言うのは、実は励ましているようで、冷水を浴びせているのです。気を付けましょう。
 専門の医師による的確な治療や、薬の服用を適切に続けることが、うつ病を治す根本です。その上で、友人のかかわりは、患者さんが健康になっていくうえでの、大きな"追い風"となるのは間違いありません。

 安心させてあげる
 よく、うつ病の人を「励ましてはいけない」と言われます。
 そんなことはありません。「励まし」こそが、うつ病を治す"良薬"です。
 もちろん、相手の状況に即していなければ、励ましではありません。では、うつ病の人への励ましとは、どのようなことをすることなのでしょうか。
 基本は、リラックスさせてあげること。安心させてあげること。これが何よりの励ましになります。
 通常、励ましといえば、相手に行動を起こさせることが中心ですが、うつ病の人には、くれぐれも、プレッシャーや負担を感じさせないでください。
 「今のままでいい」「休んでいい」と、ゆっくり休養を勧めることが励ましなのです。
 ところが、「休むなんて、とんでもない」「努力しなければ」「休めば、将来が台無しになってしまう」と思いこんでしまう人がいる。性格的には、真面目で几帳面、他人の評価が気になる傾向があります。
 休むこと自体に不安を感じる人を、どうリラックスさせるか。そこからは、あなたの思いやり、知恵です。基本は、何度も、何度も、「今のままでいい」「休んでいいんだよ」と、繰り返すこと。
 できても、できなくても、認める。喜ぶ。ほめる。それが、本人の安心になっていきます。
 こうした、何もしないように励ますことの繰り返しが、何より、うつ病の人のためになるのです。

 「聞く」ことが励まし
 話を「聞く」ことも、相手をリラックスさせます。
 「聞く」ことは、受け身のように見えて、実は大変に大きな励ましの効果があるのです。
 もちろん聞き方があります。
 まず、受け入れることです。相手が、どんなことを言っても、話の腰を折ったり、反論したりしない。とにかく「そやな、そやな」と、相づちを打って、うなずく。相手の言ったことを、全面的に支持するのです。
 納得できないことや、あなたの意に反したことも、当然あるでしょう。それでも、「そやな、そやな」と、声に出して言う。同意していることを伝えるのです。
 それだけで、どれだけ相手が安心するか。聞くことは、励ましなのです。

 プレッシャーをかけない
 うつ病の人の話す内容の特徴として、次のような点があります。
 まず、何事にも悲観的になること。倫理的に自分を責め、自責の念や罪責感につながっていきがちです。
 症状を例にとってみると、良くなったことには意外に鈍感で、悪くなることには、ことさらに敏感です。
 未来に対して、「治らへん」「就職できへん」「生涯、結婚できへん」などと、極端で否定的です。
 さらに、極端な結論を信じ込んでしまい、疑いを持たない。
 "こうすべきだ" "こうあるべきだ"という頑なな考えを変えない。
 こうした傾向の人と、「対話」するうえで、気をつけることを、4点、挙げましょう。
 繰り返しになりますが、1点目はプレッシャーを掛けないことです。これが基本です。
 考え方を否定しない。無理に変えさせない。その上で、上手に、考え方の極端さや、おかしさに気付かせてあげることができれば、相手のためになります。
 さらに、「絶対に治らへん」とか、「仕事に就けへん」など、否定してほしくて言っている場合がありますから、その辺りは、相手を安心させることを念頭に、よろしくお願いします。
 2点目は、相手に愚痴をこぼさないこと。励ます相手に、こちらが弱音を吐いては励ましになりません。
 3点目は、しからないこと。
 絶対に相手を追い詰めてはいけません。
 4点目は、お説教をしないこと。
 相手は、理屈通りにできないで苦しんでいるのです。それを理詰めで説得して通じるわけがありません。"分かってもらえない"と孤独感が増すだけです。
 相手の現状を受け入れて、寄り添うような対語を心掛ける。これが、励ましになります。

 唱題と会合参加は?
 最後に、唱題と学会の会合への参加についてお話しします。
 どちらも、していい時と、してはいけない時があります。
 何度も言いますが、リラックスさせること。安心させてあげること。これが、何より、うつ病の人のためになることです。
 もし、唱題をして、リラックスできる、気持ちが晴れやかになる。そう感じられる時であれば、あげた方がいいでしょう。
 その逆で、元気が出ない。「信心がないから」とか「折伏ができないから」と自分を責めて、苦しくなってしまう。時には妄想や幻聴がある。こういうことを感じる時は、自分を追い詰めています。無理しないことを、相手に勧めてあげましよう。
 会合への参加も、同じように考えて判断すれば、いいと思います。
 ここまで、友人としてかかわるうえで、大切だと思うことを大まかに述べてみました。
 確かに難しいことです。時間もとられます。ストレスも大きいかもしれません。
 こうした魂の格闘が、あなたを鍛えないわけがありません。人間的に成長しないわけはないのです。真の励ましの力がついていくことは、間違いありません。
 最も苦しい、患者さんのために。そして、その家族のために。進んで苦難の中に飛び込んでいく方に、私は最大の敬意と称賛を送りたいと思います。

大白蓮華 2008-8 P94〜P97】